【エリキャンペーン（オオグルマ）】　～絶世の美女ヘレンにまつわるハーブ～

ホメロスの叙事詩で描かれたトロイア戦争伝説。その戦争のきっかけとなった絶世の美女ヘレン（ヘレネー）にまつわるハーブが今回のテーマ、エリキャンペーンです。通説によると、トロイアの王子パリスに連れ去られる際、スパルタ王妃ヘレンが手にしていたのが一握りのエリキャンペーンだったとか。「ヘレンの涙でエリキャンペーンの花が咲いた」「ヘレンは毒ヘビによる咬傷にエリキャンペーンを用いた最初の人物」という別説もあります・・・。いずれにしても、エリキャンペーンと美女ヘレンは切っても切れない間柄、その証拠にエリキャンペーンの学名はヘレンに因んでInula heleniumといいます。

エリキャンペーン(elecampane)とは

美女ヘレンの名にふさわしく、華やかな黄色い花が特徴のエリキャンペーンは、ヨーロッパ〜中国西部（新疆）を原産とするキク科オグルマ属の多年草です。成長すると草丈が2m以上にもなる大型植物で、根と根茎が生薬として利用されます。

古今東西で認められたハーブ

古代ギリシア・ローマ時代から薬草として用いられ、中世になると修道院の薬草園でもさかんに栽培されていました。長い間ヨーロッパでは呼吸器系、消化器系、月経痛、利尿剤の治療に使われるだけでなく、馬や羊の皮膚疾患にも有用とされる“万能”ハーブでした。1800年代にはエリキャンペーンを主材料とした咳止めドロップやシロップが製造されていたそうです。

ヨーロッパからの入植者達がアメリカ新大陸に持ち込んで以降、エリキャンペーンはアメリカでも広く利用されるようになり、気管支鬱血の治療薬として米国薬局方に登録されていたほど！

このハーブは、インドの伝承医学アーユルヴェーダや中国の漢方医学においても、気管支炎や喘息に用いられます。日本では「オオグルマ」と呼ばれ、「土木香」という生薬としても知られています。

偉大な先輩たちのお墨付き！

医学・薬学の偉人たちも、エリキャンペーンの薬用効果を高く評価しています。例えば、「医学の父」ヒポクラテスは、脳や腎臓・胃・子宮への薬効を認識し、慢性皮膚疾患や動物咬傷の治療にも用いていたそうです。また、「薬理学の父」と称されるディオスコリデスやローマの博物学者である大プリニウスも、咳や息切れに対してエリキャンペーンを推奨しました。

エリキャンペーン（根・根茎）に含まれる有効成分

特筆すべきは、根・根茎に多量に含まれるイヌリン（最大44%）。因みにイヌリンという成分名は、エリキャンペーンの学名に由来します。というのは、イヌリンは1804年にエリキャンペーンの根から分離発見された成分なのです。

イヌリンの他には、揮発性精油（アラントラクトン、イソアラントラクトン、ヘレナリンを含むセスキテルペンラクトン等）、ステロール、樹脂、粘液、苦味成分、サポニンなどが含まれています。

エリキャンペーンの効果・効能

多様なフィトケミカルを有するエリキャンペーンは、抗菌、抗真菌、去痰、鎮咳、消化促進、抗炎症、強壮など多くの作用が期待できます。

♦ 鎮咳去痰作用
エリキャンペーンが呼吸器系の健康に有効なことは、このハーブに含まれる成分からも明らかです。アラントラクトンには気管支内の粘液を薄め、痰の排出を促し、咳を鎮める作用があります。加えて、アラントラクトンを含むセスキテルペンラクトンには炎症を抑制する働きがある他、天然の抗生物質として細菌による感染から気管支を守ります。

♦ 寄生虫を撃退
アラントラクトンとイソアラントラクトンには駆虫作用、抗寄生虫作用があり、体内の寄生虫（回虫、ギョウ虫、鉤虫、鞭虫、 線虫など）を駆逐する効果が期待されます。

♦ プレバイオティクス効果 / 整腸、栄養吸収促進、免疫力アップ！
エリキャンペーンにたっぷり含まれているイヌリンは多糖類の一種ですが、難消化性のため体内で吸収されることなく腸に届き、腸内細菌によって分解され、善玉菌の大好物になります。善玉菌の増殖と活動が促進されることで腸内環境は改善し、便秘や膨満感の改善はもちろんのこと、栄養吸収や免疫力が向上します。

1977年、消化性潰瘍疾患の患者102人を対象に実施された臨床試験では、エレキャンペーンの根の抽出液により、痛みの緩和と胃粘膜微小循環の改善がみられました。このことから、エレキャンペーンには潰瘍治癒効果も期待できます。

♦ 血糖値の正常化 / 糖尿病の予防
イヌリンは体内で吸収されないため、食後血糖値が急激に上昇することがありません。そのためインスリン分泌に負担がかかることがなく、結果として糖尿病を予防する効果が期待できます。

使い方

乾燥させた根の部分を煎じて内服する場合、そのままでは苦味があるので、はちみつを加えたり、他のハーブとブレンドすると飲みやすくなります。
ハーブチンキ（ティンクチャー）も幅広くお使いいただけるアイテムです。日本ではなかなか見かけないエリキャンペーンのチンキをご自身で手作りするのもよいですね。

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注意点

・過剰摂取は嘔吐、下痢、けいれんを引きおこす可能性があります。
・妊娠中や授乳中の方、ブタクサアレルギーをお持ちの方は、摂取をお控えください。
・血糖をコントロールする薬を服用している方は、相互作用を起こす可能性がありますので、事前に医師にご相談ください。
・エレキャンペーンは中枢神経に働きかけ、眠気を引き起こす可能性があります。麻酔薬との相互作用が懸念されるため、外科手術を予定している方は少なくとも手術予定日の2週間前から摂取をお控えください。