腸内細菌叢、腸内フローラなどが人間の健康に色々な影響を与えていることが、ネット、テレビ、雑誌などでよく特集されるようになってきました。

腸内には非常に多様な菌が多く生息しています。菌の種類では数百から約千種の細菌が100-1000兆個体生息しています。善玉菌や悪玉菌などといった言葉もよく聞かれるように、ビタミンの合成や栄養素を作り出している私たちに有益な善玉菌、感染症、発がん性物質や毒素を作り出してしまう悪玉菌など様々です。

腸内細菌は個人差があることが知られていますが、都会で生活している人よりも自然環境豊かな場所で生活している人の方がより豊かな腸内細菌を有しています。幼少期、青年期、老齢期と年齢とともに腸内細菌の種類も変わっていって、加齢とともに腐敗性の腸内細菌が多くなることから、腸内細菌を健康に保つことは老化予防につながるといえるでしょう。

人間と腸内フローラの相互依存

人間の活動が地球の自然環境に影響を与えるように、私たちの胃腸に生息している腸内細菌も私たちの人間の健康に影響を与えます。また、逆に地球の環境問題が人間の活動に影響を与えるように、私たち人間の健康も腸内細菌に影響を与えています。

善玉菌の働き

正常な腸内細菌フローラは食物繊維から短鎖脂肪酸と呼ばれる大腸の栄養素の生産、ビタミンK、ビオチン、葉酸の生産、発がん性物質の解毒、食餌などから入ってくる異物の解毒、コレステロールを代謝して排出する、悪性菌の繁殖を抑制するなど重要な働きをしています。

腸内フローラと免疫

特に免疫システムの発達には腸内細菌が大きく影響を与えています。私たちの体の免疫細胞の70％は腸に集中しています。腸内細菌は私たちの免疫細胞とコミュニケーションをとって、時には免疫を刺激して免疫力を高め、時にはアレルギーや炎症などの過剰な免疫反応を抑えるように信号を出しています。

腸内毒素症とは

腸内毒素症とは、腸内フローラのバランスが崩れてしまった状態を指します。例えるなら有益な腸内細菌は悪玉菌の代表クロストリディオイデス・ディフィシル菌などが腸内に異常繁殖しないようにしてくれていますが、抗生物質の投与により腸内フローラのバランスが崩れるとクロストリディオイデス・ディフィシル菌が増殖して、腹痛、出血を伴う下痢、偽膜性腸炎などを引き起こしてしまいます。

腸内毒素症の症状

腸内毒素症の症状はまず、胃腸の障害としては以下のものが挙げられます。

• 膨満感
• ガス
• 下痢
• 便秘
• 胸やけまたは胃酸の逆流

腸壁のダメージにより食物過敏症やアレルギー などに罹りやすくなります。また悪玉菌は、腐敗などを引き起こすことで口臭、不快な体臭の原因となります。

腸が荒れて栄養の吸収が低下することから、体重の低下と慢性疲労にもなりやすくなります。

悪玉菌の作り出す毒素によって体調不良や免疫力の低下、皮膚の疾患 – にきび、酒さ、湿疹、かぶれ、関節痛など様々な影響が体に現れます。

さらに、細菌性の毒素は神経や精神にも影響を与え、

• 集中力の欠如
• 頭痛
• うつ病
• 不安

などの症状が現れることもあります。

これらの症状は、以前の動画で説明した腸内細菌異常増殖症候群（SIBO）や腸漏れ（リーキーガット）と非常に似ていると同時にそれらが併発していることもあります。

腸内毒素症と肥満

腸内毒素症では、体重増加、体重減少のどちらも起こりえます。先ほど腸内毒素症では、栄養素の吸収が低下して体重の低下が起きると述べましたが、この矛盾しているように聞こえる真逆の減少は、腸内細菌の種類によって引き起こされると考えらます。ある種の悪玉菌は、栄養素の吸収をブロックして体重の低下が起きるのに対して、ある種の悪玉菌はインスリンシグナル伝達をブロックし、インスリン抵抗性と脂肪蓄積を引き起こしてしまいます。恐ろしいことに、細菌によっては、空腹感を刺激するホルモンや食欲を抑制するホルモンの分泌にまで影響を与える存在が知られています。腸内毒素症では、これらのホルモンバランスに変化が生じて、食欲や満腹感に影響を及ぼす可能性が起こります。更にある種の腸内細菌は、体内の脂肪蓄積を促進する可能性があります。さらに、腸内細菌のバランスが崩れると、不健康な食品、特に糖分や脂肪分への欲求が高まり、消費カロリーが高くなる傾向にあります。糖分への欲求の高まりは、糖分を餌とするカンジタ菌などの酵母の過剰増殖時によく見られる症状です。

腸内毒素症との関連が指摘されている病気

腸内フローラバランスが乱れると、胃腸の不快だけでなく、肥満、高血糖、インスリン感受性の低下、体内の炎症の悪化、ガンのリスク増加を引き起こすとされています。

腸内毒素症と大腸がん

肝臓では、油や脂質の吸収に重要な胆汁を生産し、胆のうを通して腸に分泌していますが、腸内毒素症では、この胆汁が悪玉菌により代謝され二次胆汁酸へと変化してしまいます。この二次胆汁酸は、大腸がんのリスク発症を高めることが知られています。また二次胆汁酸は肝臓への毒性も高く、血糖や脂質の代謝にも影響を与えてしまうという研究があります。　

腸内毒素症と自閉症スペクトラム障害

自閉症スペクトラム障害では、通常よりも多くのカビ由来の代謝物が発見されていることから、腸内フローラが乱れ腸内にカンジタ菌を始めとしたカビが増殖しやすい環境になっていると推測されています。

腸内毒素症と自己免疫疾患

腸内細菌と免疫システムは非常に密接な関係があることから、リウマチなどの自己免疫疾患は腸内環境、腸内フローラと関連がみられています。

腸内毒素症の原因

腸内毒素症を引き起こす原因は、抗生物質、欧米型の食生活（高脂肪、高糖、高たんぱく、低食物繊維）、胃酸、消化酵素の減少、食中毒、免疫力の低下、ストレスなどが挙げられます。その理由を説明していきましょう。

抗生物質

抗生物質は腸内細菌フローラバランスを大きく乱し前述のクロストリディオイデス・ディフィシル菌の異常繁殖、イーストのカンジタ菌の異常繁殖の原因となりますので必要不可欠以外の抗生物質の使用は控えるべきです。

バランスを欠いた食事

欧米型の食生活は短鎖脂肪酸を減少させ、腸内の酸素濃度が高くなり酸素があると生きていけない偏性嫌気性菌が減少してしまい、逆に酸素があってもなくても生きていける通性嫌気性菌が増えてしまいます。

消化不良

胃酸、消化酵素の減少、食中毒は腸に常在している以外の細菌を腸に呼び込む原因となります。

ストレス

ストレスはストレスホルモンのコルチゾールの分泌を増やします。コルチゾールが増加すると腸菅はダメージを受けやすく、免疫力は低下します。腸粘膜は粘液を分泌して、悪玉菌が直接腸菅細胞に接触しないようバリアーを張っていますが、ストレスが増えると腸粘膜から分泌される粘液が減少していまい、悪玉菌が腸管細胞に付着し、増殖しやすくなります。

人口甘味料

人工甘味料を継続して使用することで、善玉菌のビフィズス菌や乳酸菌が大幅に減少することが確認されています。

腸内毒素症の診断

腸内毒素症の診断は、ずばり検便です。通常の検便は、数種類の寄生虫や病原菌の培養を目的としていますが、これだけでは腸内フローラの全体像を掴むのには不十分です。腸内毒素症の診断に使用される検便は最低でも数百種類以上の細菌を解析できる必要があります。

腸内毒素症の治療

※注意：抗生物質治療の限界

腸内毒素症を治療しようとした時に、抗生物質が処方されることがあります。しかしですね、原因のところでも解説しましたが、抗生物質を使用することで、腸内フローラバランスを大きく乱し悪玉菌のクロストリジオイデス・ディフィシル菌やカンジタ菌の異常繁殖を起こし易いだけでなく、善玉菌も一緒に殺してしまい問題を余計複雑にしてしまいますので、非常に危険な細菌が繁殖している以外、抗生物質は極力使用しないでください。

では、最も効果的な治療法は何かというと、善玉菌と呼ばれる乳酸菌、ビフィズス菌、バチラス菌などのプロバイオティックスとその餌となるプレバイオティックスを摂ることになります。

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腸内毒素症の治療―プロバイオティックス

プロバイオティックスを用いた研究では、クロストリディオイデス・ディフィシル菌および抗生物質使用時の下痢の予防と治療、ウィルス性の下痢の予防と治療、乳糖不耐症の症状緩和、悪玉菌による腐敗性代謝物の減少、大腸がんの予防、腸内の免疫力向上、腸内での炎症低減、クローン病および潰瘍性大腸炎の改善、過敏性腸症候群の症状改善、ピロリ菌の治療効率向上、便秘の改善、アレルギー症状の改善、アトピーの改善、風邪などの呼吸器感染症の予防、膣感染症および膀胱炎の治療効率向上などの効果が確認されています。

また腸内での悪性代謝物の減少による肝臓への負担軽減、短鎖脂肪酸の増加によるインスリン抵抗制の改善、腸内コレステロールの代謝改善によるコレステロール値の改善など、カルシウム、マグネシウムなどのミネラルの吸収率が改善することで骨粗鬆用の予防などの効果も確認されています。

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腸内毒素症の治療―発酵食品

プロバイオティックスのサプリメント以外で腸内フローラを改善するには、発酵食品を食べることで善玉菌を摂取することです。発酵食品を多めに食べるのは健康維持に有意義ですが、ほとんどが胃酸で殺菌されてしまいますので治療効果はサプリメント比べると遅くなります。またプロバイオティックスのサプリメントを選ぶときには、腸までしっかりと届くように開発された製品を選ぶようにしてください。

腸内毒素症の治療―プレバイオティック

腸内フローラを改善するもう一つの方法、プロバイオティックスの餌となるプレバイオティックスですが、これは食物繊維の一種イヌリン、フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖などがあります。プレバイオティックスを多く含む食品は、にんにく、玉ねぎ、ネギ、アスパラ、海苔、ゴボウ、亜麻仁、こんにゃく、リンゴ、未完熟バナナ、豆類、アーモンド、全粒オート麦などです。

腸内毒素症の治療―プレバイオティックの副作用

食物繊維が多く含まれる食品を食べるとガスが溜まりやすい、膨満感が悪化してしまう方は腸内細菌が異常繁殖しているSIBOの可能性があります。気になる方はSIBOのセルフチェックをしてみましょう。

SIBOセルフチェック

腸内毒素症の治療―プレバイオティックの副作用の予防法

ガスが溜まりやすいような場合には、食物繊維系のプレバイオティックスではないポリフェノール、特にバイオフラボノイド系のプレバイオティックスが効果的です。プレバイオティックスとして効果が確認されているもポリフェノールには、ザクロに含まれるプニカラギン、柑橘類に多く含まれるヘスペリジン、ナリンジン、多くの野菜に含まれるケルセチン、そば粉に含まれるルチンが乳酸菌やビフィズス菌の増加を助け、これら善玉菌の生産物の短鎖脂肪酸が増加することが確認されています。さらにこれらのバイオフラボノイド系のプレバイオティックスは、サルモネラ菌などの悪玉菌の増殖を抑えることも確認されています。食物繊維を多く含む食品がお腹にあわない場合には、ザクロ、柑橘類、ぶどうを多めに食べるのも腸内細菌を整えるには良いでしょう。

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バイオフラボノイド系プレバイオティクスは、腸内の善玉菌の成長と活性を促し、腸内細菌の健康的なバランスを維持し、腸全体の健康状態を改善します。
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活性炭

炭は古くから毒出しとして利用されてきました。活性炭は胃腸内に溜まった有害な毒素、化学物質、重金属を吸着して体外に排出する効果があります。細菌性の下痢のとき、活性炭を摂取することで細菌や細菌の出す毒素と吸着して早く下痢の症状を緩和します。活性炭はガスや未消化の食べ物を吸着してお腹周りをスッキリさせる効果もあります。特に口臭やオナラが臭い方は、悪玉菌による腐敗が起きている可能性が高く、活性炭は、悪玉菌や悪玉菌の代謝物を吸着することで臭い口臭やオナラの発生源を絶ちます。

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まとめ

腸内には、実に約千種もの細菌が存在しており、これが我々の健康に大きく関与しています。個々の生活環境や年齢に応じて、腸内細菌のバランスは変動します。人間と腸内細菌は深い相互関係にあり、外部環境や食生活、そしてストレスがその微妙なバランスを乱すことがあるのですね。腸内のバランスが乱れると、様々な健康上の問題が引き起こされることが知られています。もしバランスが乱れているなと思ったら、プロバイオティックスやプレバイオティックスの摂取、そして適切な食生活の管理により、腸内のバランスを整え、健康を維持することが十分に可能です。

腸内毒素症のYouTubeも公開していますので、よろしければこちらも確認してください。