胃酸は超重要、低胃酸症とは？

低胃酸症は私が過去15年以上、治療してきた症状の一つで、私が診療する中で最も多い疾患の一つです。健康維持に胃酸は非常に重要で、低胃酸症は様々な病気の原因となりえます。

胃酸とは？

胃酸は胃壁から分泌される消化液で、主成分は塩酸と消化酵素のペプシノゲン（後にペプシンに変換）からできています。胃酸の主な働きは食物の消化です。特にタンパク質の分解やビタミン、ミネラルの消化吸収に胃酸は欠かすことのできない存在です。

胃酸の働きは、消化以外にも食品や、口、喉に付着している細菌、ウィルス、カビ、寄生虫などを消毒して食中毒や感染症を予防してくれる、私達の体に備わった天然の防御システムの一つです。

低胃酸症とは？

この消化にも感染症予防にも必要な胃酸の分泌が不足している状態を低胃酸症と呼びます。全く胃酸が分泌されないのではなく、胃酸の分泌が少ない状態です。

最新の研究では人口の30％程度が胃酸不足と推測され、年齢とともに胃酸の分泌は低下する傾向にあります。

適切な胃酸は食事の消化に欠かせません。特にタンパク質、ビタミンB12、鉄、亜鉛、カルシウム、マグネシウムなどのミネラルの消化には胃酸が欠かせません。胃酸の分泌が低下すると、これらの栄養素を吸収することができなくなります。タンパク質は分解されてアミノ酸になり、筋肉、毛髪、つめ等の様々な部品に使われたり、気分や感情などを制御している物質の原料にもなります。ビタミンB12不足は疲労や麻痺、ミネラル不足は骨粗しょう症、貧血、疲労など様々な病気の原因になります。

胃酸は消化に必要なだけでなく殺菌効果としても重要で、雑菌やカビの繁殖を抑える働きがあります。胃酸が少ない方は細菌による感染症や異常繁殖により下痢やガスが溜まりやすいのが特徴です。

食後の胸焼け、膨満感、ゲップもしくは胃酸逆流症などの症状から胃酸過多と診断されている方でも、胃酸の分泌量を測ると実際は低胃酸症の方がかなりいらっしゃいます。このような症状は胃酸の分泌量が少ないため消化能力が落ち、胃の中に食べ物が長く停滞するために起こります。この低胃酸症の方が制酸剤を摂りますと、胸焼け、膨満感等の症状は更に悪化し、消化吸収能力も悪化します。

低胃酸症によって引き起こされる症状

低胃酸症の症状のなかで最も勘違いされているのが、胸焼けです。胸焼けイコール胃酸過多と勘違いされる場合が多いのですが、実際には胃酸不足で消化ができず、胃もたれから胸焼けを引き起こすケースが多く見られます。（もちろん、胃酸過多でも胸焼けは起こりますので注意が必要です。）

胃酸が不足すると有害な細菌が腸内で繁殖しやすくなり、下痢を繰り返したり、腸内毒素症と呼ばれる腸内細菌バランスの乱れによる体全体への不調、カンジタ菌の繁殖などにつながります。胃酸は正常な腸内細菌フローラのサポートにも重要です。

胃酸は大きな塊のタンパク質を、より小さいペプチドと呼ばれるアミノ酸の集合体に分解してくれます。このペプチドは更に小さく消化されるか、ペプチドのまま腸から吸収されます。胃酸とペプシンが不足すると大きな塊のタンパク質は消化、吸収されないので栄養不足、筋肉の萎縮などを引き起こします。また消化できなかったタンパク質は、食品アレルギーや食品不耐性を引き起こすこともあります。

一般的な低胃酸症の症状

• 膨満感
• ゲップが沢山でる
• 胸焼け
• 胃が重い
• 吐き気
• 下痢または便秘
• おならが沢山でて困る
• すぐにお腹がいっぱいになる
• 毛が抜ける
• 裂け爪、爪が弱い
• 疲労
• 乾燥肌

低胃酸症と関連があるとされている病気

• 貧血
• 骨粗鬆症
• 湿疹
• アレルギー
• 逆流性食道炎
• カンジタ菌
• SIBO（小腸内細菌異常繁殖症）
• リーキーガット
• 副腎疲労
• 喘息
• リウマチ
• 甲状腺機能低下症

低胃酸症の原因

原因には様々な要素が考えられますが、ストレス、更年期、薬、ピロリ菌は胃酸の分泌を低下させる大きな原因の一つです。一般的に胃酸の分泌は加齢と共に低下することから高齢者には多くみられ、高齢者ほど消化能力が低下するのは胃酸の分泌が低下することも原因の一つです。

低胃酸症の検査方法

胃酸の分泌能力を正確に測るには、ｐHモニタリング検査という検査がありますが、鼻から胃まで２4時間カテーテルをつけっぱなしという不便さがあります。

私がお勧めする方法は、ハイデルベルグ胃酸検査です。この方法ですと約1～1.5時間で胃酸の分泌能力を測定できます。私のクリニックでも実施しているのがハイデルベルグ胃酸検査です。

他にも単発でリトマス試験紙を飲み込み、胃酸濃度を測る方法がありますが、この方法は空腹時の胃酸濃度しか計測できず、胃酸分泌能力を測るのには適しません。

低胃酸症の治療法

♦　よく噛む

胃酸が適切に出ていない状態では、食事を摂ること自体が胃への負担となります。よく噛むことで胃への負担を減らしましょう。

♦　早食いをやめる

早食いは胃への負担を増やします。また、イライラしたり焦って食事をすると胃酸だけでなく消化酵素の分泌が悪くなり消化不良を起こす原因になりますので、ゆっくりと落ち着いた状態で食事をとるようにしましょう。

♦　食事の量を減らして、食事の回数を増やす

胃酸の分泌が弱い方はいっぺんに沢山の食事ができません。1回あたりの食事量を減らすことで、胃への負担を軽減できます。

♦　食前に酢の物や梅干しを食べる

酸味のあるものは、胃を刺激して胃酸の分泌を良くする働きがあります。

♦　ハーブを試してみる

苦味成分のあるハーブ、キバナリンドウには胃酸や膵臓で作られる消化酵素の自然な分泌を促進して消化を助ける目的でヨーロッパで利用されてきたハーブです。

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♦　胃酸のサプリメントをとる

不足している胃酸をサプリメントから摂取するという治療法で、低胃酸症の最も効果的な治療法です。胃酸を補うことで栄養素の消化吸収能力が高まり、弱った胃の修復も早めてくれます。

■胃酸&ペプシン

胃酸と消化酵素の一つペプシンは、食物の消化吸収に欠かすことのできない物質です。胃酸&ペプシンは、特にタンパク質やビタミンやミネラルなどの栄養素（ビタミンB12、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛など）の消化に必要不可欠です。これらの栄養素が不足する原因は、食事の内容以外に胃から分泌される胃酸&ペプシンの不足も考えられます。
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胃酸のサプリメントをとる時の注意点

●　胃酸のサプリメントは水で飲み込み、お湯やお茶では、飲まないでください、カプセル内の胃酸が途中で溶けて、喉や食道にダメージを与えることがあります。
●　胃酸過多、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、食道炎がある場合には胃酸のサプリメントは使用しないでください。 これらの症状を悪化させます。
●　胸焼けが悪化した場合や胃が痛む場合には摂取量を減らして様子を見てください。改善しない場合には、摂取を中断してください。
●　アスピリン、非ステロイド抗炎症剤、ステロイドを服用している方は、胃酸のサプリメントを摂ると胃炎、胃潰瘍を引き起こすことがあります。

Reference: Clinical Nutrition AFunctional Approach. 2nd ed. Gig Harbor, WA: The Institute for Functional Medicine. 2004 Gut. 1972 Apr;13(4):251-6. Curr Opin Allergy Clin Immunol.2006 Jun;6(3):214-9. Curr Opin Gastroenterol. 2010 Jan;26(1):31-5 Biochem Biophys Res Commun. 2009 Apr 17;381(4):666-70. Am Geriatr Soc. 1986 Nov;34(11):800-6 Gastroenterology 1963;45:15-26. Am J Clin Nutr. 2004 Sep;80(3):539-49. AAPS Journal, 16(6), 1358–1365. doi:10.1208/s12248-014-9673-9 Microbial Biotechnology, 10(5), 1025–1030. doi:10.1111/1751-7915.12780 World Journal of Gastroenterology, 23(4), 563–572. Gut and Liver, 10(5), 749-756.