【シーバックソーン】～モンゴル帝国の強さの秘密は「ヒマラヤの聖なる果実」だった?!～

シーバックソーン(Sea Buckthorn/学名Hipphophae rhamnoides) は、棘を意味する“ソーン(thorn)”という名が示すように、鋭利な棘をもつ落葉低木で、雌木にのみオレンジ色の小さな果実がつきます。日本や中国で「サジー（沙棘）」と呼ばれるこの植物は、中国、モンゴル、チベット、ロシア、ヨーロッパなどで古くから美容と健康のために利用されてきました。

インドの伝承医療アーユルヴェーダでは、数千年以上も前に既にレメディとして使用されていた記録も残っています。チベットの古代医典にも記載されているこの植物は「ヒマラヤの聖なる果実 (Holy fruit of the Himalayas)」と呼ばれ、長い間重用されてきました。

モンゴル帝国を築いたチンギス・ハーンにもこの植物に関連した逸話があります。西征を進める中、軍隊や軍馬の精気づけにシーバックソーンの果実を用いたというのです。当時世界最強を誇ったモンゴル軍の強さの秘密が、この小さく可愛らしいオレンジ色の果実にあったというのは、とても興味深い話ですね。現代では、宇宙放射線が飛び交う中で作業するロシア人宇宙飛行士の被曝リスク低減を目的として、シーバックソーンオイルが使用されています。

シーバックソーンの栄養成分

「ヒマラヤの聖なる果実」という言葉の通り、シーバックソーンはまるで天から与えられたかのような驚愕的な栄養成分を有します。この植物に含まれる生理活性物質数は約190！その中には、ビタミン類(ビタミンA, B1, B2, C, D, E, K, P)、ミネラル類（カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、リンなど）、カロテノイド類、フラボノイド類、アミノ酸類、フェノール類、不飽和脂肪酸類、葉酸、有機酸類などがあります。

特筆すべきは不飽和脂肪酸。オメガ3, 6, 9に加え、多量のオメガ7（パルミトレイン酸）が含まれています。オメガ7系脂肪酸を含有する食品はサケやアンチョビなどの寒海性魚類、マカデミアナッツ、シーバックソーンに限られています。そして、4種類のオメガ脂肪酸を含有する植物は、この地球上においてシーバックソーンだけなのです。パルミトレイン酸には、肌の老化防止、LDL（悪玉）コレステロール減少、脂質代謝改善、抗炎症作用、インスリン感受性改善などの作用があります。

シーバックソーン効果・効能

古くから世界各地で愛用されてきたシーバックソーンですが、スーパーフードとして、ナチュラルレメディのアイテムとして、そしてスキンケア商品の原料として注目されるようになったのは近年のこと。健康・美容効果を科学的に実証すべく、現在も研究が続けられています。これまでの研究と、この小さな果実・種子・葉に凝縮された豊富な栄養成分から、次のような有益性を見出すことができます。

♦ 心臓の健康
シーバックソーンにはLDL（悪玉）コレステロールを下げる作用があります。血栓の原因にもなるLDLコレステロールの減少は、動脈硬化、高血圧、心筋梗塞など心臓血管疾患の発症リスクを下げることにつながります。
♦ ガン予防への期待

シーバックソーンの豊富な抗酸化物質（ビタミンC、ビタミンE、フラボノイド類など）が、ガンの大きな原因のひとつであるフリーラジカルを中和するので、ガン予防に有効と考えられます。ある研究では、シーバックソーンの果実から抽出されたオイルによって、肝臓ガンを引き起こすアフラトキシンの毒性が弱まることが確認されています。

♦ ビタミンCが大活躍！
シーバックソーンのオイルに含まれるビタミンCはオレンジの15倍にも及ぶそうです。美肌効果への期待で心踊りますね！また、ビタミンCは抗酸化機能や免疫機能はもちろんのこと、コラーゲン生成などにも重要な役割を果たします。コラーゲンは皮膚や骨、腱などを構成するタンパク質のひとつで、傷や怪我の修復・再生にも不可欠な成分。シーバックソーンの高濃度ビタミンCがコラーゲン生成を活発化させることで、傷が早く治癒するだけではなく、その傷跡が目立たなくなるよう皮膚組織や細胞が整えられていきます。さらに、ビタミンCは鉄分の体内吸収を助ける作用があるため、貧血予防や血行促進をもたらします。

♦ 皮膚疾患の予防・改善
シーバックソーンはお肌のトラブルにも効果があります。日焼け止め、日焼け後の炎症緩和、床ずれの治癒には、果実、果実の濃縮物、シーバックソーンオイルのいずれかをお肌に直接塗布するとよいとされています。ニキビ、皮膚炎、乾燥肌、アトピー、皮膚潰瘍、妊娠線の予防や改善にはシーバックソーンオイルがおすすめです。

♦ 目の健康に
シーバックソーンのオイルには、他のオイルの2.4倍ものカロテノイドが含まれています。強い抗酸化作用をもつカロテノイドは目の老化を引き起こす活性酸素を抑え、加齢黄斑変性、白内障、夜盲症などの眼病予防に役立ちます。

♦ 糖尿病の予防
シーバックソーンにはインスリン抵抗性を改善する作用があると考えられています。健常者を対象にした実験で、食事にシーバックソーンの果実を加えたところ、いずれの人にも血糖値スパイク（食後に血糖が急上昇すること）がないとの結果が出ました。このことから、シーバックソーンには血糖上昇を抑制し、2型糖尿病を予防する効果があると期待されています。血糖値スパイクの回避が可能であるということは、血糖管理が必要な糖尿病患者にとっても朗報です。

♦ 抗炎症作用
シーバックソーンには抗炎症作用があり、関節痛や筋肉痛を緩和する効果があります。関節炎患者にシーバックソーンの葉のエキスを注射するという臨床試験でも、炎症の抑制が確認されています。

♦ 胃潰瘍治療への有用性
胃潰瘍のモデルラット（人為的に胃潰瘍のような症状を再現したラット）に、シーバックソーンの種子と果実から抽出されたオイル、樹皮から抽出されたオイルをそれぞれ投与したところ、前者は潰瘍の症状改善が見られ、後者は胃の内壁修復が確認されました。シーバックソーンがヒトの胃潰瘍の治療にも有用である可能性はあります。

♦ 感染予防
ある研究で、シーバックソーンの葉と果実のエキスには、チフス菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌、赤痢菌、肺炎連鎖球菌の増殖を止める作用と、メシチリン耐性黄色ブドウ球菌（MRSA）に対する抗生物質効果が確認されました。このことから、細菌感染の恐れがある環境に晒されても、シーバックソーンの強い抗酸化作用によって感染症を患うリスクを抑えることができると考えられます。

シーバックソーンの使い方

シーバックソーンは非常に酸味が強いため、ジュース、ピューレ、ジャム、シロップなどに加工されて販売されています。サプリメント、お茶、オイルであれば、シーバックソーンの栄養を効果的に摂ることができます。

注意点

疾患を持つ方、また妊娠中や授乳中の方は事前に主治医にご相談される事をおすすめします。

シーバックソーンには血液凝固を遅くする作用や血圧を下げる作用があります。出血性疾患をもつ方、外科手術の予定がある方、降圧剤を服用している方、低血圧症の方は摂取しないでください。

おまけ：シーバックソーンという英語名の謎

シーバックソーンは、シーベリー (sea berry) とも呼ばれます。海産物でもないのに、何故、シーバックソーン[直訳：海の黒梅擬(クロウメモドキ)]、シーベリー[直訳：海のベリー] と呼ばれるのでしょう？この植物は中国、モンゴル、ロシア、ヒマラヤ地域、北欧、イギリス・・・とユーラシア大陸の東西を横断するように広く分布していますが、面白いことに、中央アジアでは高山や砂漠に、西欧では海水のしぶきが届くほどの沿岸に自生しています。これがイギリスなどの英語圏で、シー（sea) という接頭語がついている理由と考えられます。